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神戸地方裁判所姫路支部 昭和29年(行)1号 判決

原告 橋詰勝三 外一名

被告 神飾税務署長

主文

原告等の請求は之を棄却する。

訴訟費用は原告等の負担とする。

事実

原告等訴訟代理人は被告が原告橋詰勝三に対する昭和二十八年七月二十五日付通知書に依る昭和二十五年度及昭和二十六年度の所得税更正決定の無効なることを確認する、被告が原告神先清之進に対する昭和二十八年七月二十五日付通知書に依る昭和二十五年度及昭和二十六年度の所得税更正決定並昭和二十九年七月二十六日為した決定に基く別紙目録記載の不動産に対する公売処分の無効なることを確認する訴訟費用は被告の負担とするとの判決を求め其の請求原因として、

原告橋詰勝三は昭和二十五年度分所得税に付昭和二十六年二月二十八日に農業経営による事業所得金五六、七〇二円塩田経営による事業所得金九〇、六七二円及所得税額金一九、三〇〇円とする確定申告書を、昭和二十六年度分所得税に付昭和二十七年二月二十九日に農業経営による事業所得金六六、九八八円塩田経営による事業所得金七一、八二〇円及所得税額金九、八〇〇円とする確定申告書を夫々被告に提出し、

原告神先清之進は昭和二十五年度分所得税に付昭和二十六年二月二十八日に農業経営による事業所得金四八、三八五円塩田経営による事業所得金九〇、六七二円配当所得金七、三七一円及所得税額金一七、一五八円とする確定申告書を、昭和二十六年度分所得税に付昭和二十七年二月二十九日に農業経営による事業所得金五四、〇〇一円塩田経営による事業所得金七一、八二六円給与所得金一〇二、〇〇〇円及所得税額金二七、八〇〇円とする確定申告書を夫々被告に提出した。

但し原告神先清之進は昭和二十五年度分所得税に付昭和二十六年六月四日に右確定申告書に譲渡所得金一〇、七〇六円を追加し所得税額を金二〇、四五八円と変更せる修正確定申告書を、昭和二十六年度分所得税に付昭和二十七年六月五日に農業経営による事業所得を金三六、六〇一円塩田経営による事業所得を金九九、一〇〇円及所得税額を金三〇、八〇〇円と変更せる修正確定申告書を夫々被告に提出した。

而して原告橋詰勝三及原告神先清之進は右確定申告による所得税に付いては之を納付した。

右農業所得金は神飾税務署員と糸引村役場係員が、塩田所得金は神飾税務署員と八木村塩業組合員が夫々協力調査し確定した額で正確なものである。

然るに被告は昭和二十八年七月二十五日に、原告橋詰勝三に対し昭和二十五年度分に付所得税額金一四一、二〇〇円昭和二十六年度分に付所得税額金二三〇円、原告神先清之進に対し昭和二十五年度分に付所得税額金一二六、六九二円昭和二十六年度分に付所得税額金一四六、八二〇円を夫々増額する旨の更正決定をなし原告等に通知した。

原告等は昭和二十八年八月十七日被告に対し再調査の請求を為したが、其の後十一ケ月を経過するも被告に於て再調査した形跡は無い其の間原告等は二回に亘り調査促進を求めた。

右の如く増額更正決定を為された事情は煎熬作業を営む同和製塩所なる組合の組合員田上栄蔵、鵜川重義等が昭和二十五年七月頃から塩の闇売を為し昭和二十七年五月塩専売法違反として起訴せられ何れも処罰を受けたが右塩の闇売により多額の利得を得たとし、右利得金は前記同和製塩所の組合員に分配せられ組合員である原告等も其の分配を受け利得したと謂うものである。

併乍ら原告両名は同和製塩所の組合員ではなく右闇売による利益分配を受けたこともなく、前記の如く原告橋詰勝三の為した確定申告、原告神先清之進の為した確定申告並修正確定申告による所得の外に塩田による事業所得は全くない被告の部下なる税務署員は同和製塩所及前浜塩業株式会社の事務員である訴外沖中鉄夫の虚偽の申述を信じ調査を誤り、同訴外人の作成せる偽造帳簿を提出せしめ、之に基き所得なきに拘らず之あるものとし前記の如く誤れる更正決定を為すに至つたものであるから前記各更正決定は何れも無効である。

被告は無効の更正決定に基き原告橋詰勝三に対し昭和二十八年九月二十四日同人所有の動産に付差押を為し、原告神先清之進に対し昭和二十八年九月二十四日同人所有の別紙目録記載の不動産に付差押を為し昭和二十九年七月二十六日之を公売処分に付したが無効の更正決定に基く右公売処分も亦無効である。

仍て被告に対し原告橋詰勝三は前記更正決定の無効なることの確認原告神先清之進は前記更正決定並公売処分の各無効なることの確認を求むるため本訴に及んだと陳述した。

被告指定代理人は主文同旨の判決を求め答弁として、

原告等主張事実中原告橋詰勝三が其の主張日時其の主張の如き各確定申告書を、原告神先清之進が其の主張日時其の主張の如き各確定申告書並修正確定申告書を夫々被告に提出したこと、被告が昭和二十八年七月二十五日原告等に対し更正決定(但し原告等主張の如き内容なる点を除き)を為し之が通知を為したこと、原告等が右更正決定に対し同年八月十八日に夫々再調査の請求を為したこと、被告が原告橋詰勝三所有の動産に付差押を為したこと、被告が原告神先清之進所有の別紙目録記載の不動産に付差押を為し昭和二十九年七月二十六日之を公売処分に付したことは何れも之を認める。

被告は原告橋詰勝三の昭和二十五年度分所得税に付いて所得金額金四五二、〇三〇円所得税額金一六〇、五〇〇円過少申告加算税額金七、〇五〇円、昭和二十六年度分所得税に付いて所得金額金一四七、八五八円所得税額金一一、八四〇円とする更正決定、並原告神先清之進の昭和二十五年度分所得税に付いて所得金額金六〇四、四四二円所得税額金一七七、六二〇円過少申告加算税額金七、三〇〇円、昭和二十六年度分所得税に付いて所得金額金四二九、〇四四円所得税額金一四七、一五〇円過少申告加算税額金六、三〇〇円とする更正決定を為し之を原告等に通知したものである、原告等其の余の主張事実は之を争う。

元来行政処分の無効は該処分に内在する瑕疵が重大なる法規違反であり、且つ瑕疵が外観上明白な場合に限られる、本件行政処分に付考察するに右処分は正当な権限を有する被告税務署長が所得税法の規定に基き適法に更正処分を為し、国税徴収法の規定に基き適法に差押並公売処分を為したものであつて、この処分自体に何等法規違反はなく又外観上明白な瑕疵も存在しないのであるから法律上無効と云うことは出来ない、原告等は無効原因の理由として「被告の部下の署員は同和製塩所及前浜塩業株式会社の事務員なる訴外沖中鉄夫の虚偽の申述を信じ其の作成した偽造帳簿を提出せしめ、之に基き誤れる更正決定を為した」と主張するが、右訴外人の申述及帳簿は被告が更正処分を為すに当り認定の一資料にしたものに過ぎない、仮に右申述及帳簿が虚偽であつたとしてもその一事を以て直ちに被告の為した更正処分の無効を来すものではないから原告の主張自体理由がない。しかのみならず被告は原告等に対し更正処分を為すに当り右同和製塩所の帳簿の検査に加えて裏付調査等あらゆる調査方法をとり原告等の所得金額等を算出したものであつて、被告の為した更正処分並差押公売処分には何等無効原因を含んで居ない。仮に本件の賦課が一部又は全部取消されることがあつたと仮定しても被告に於て既に徴収した税金額の一部又は全部を不当利得として返還する義務を負うに至るのみであつて公売処分自体を無効とすることは出来ない。

従つて原告等の本訴請求は何れも失当であると陳述した。

理由

原告等は昭和二十八年七月二十五日被告の為した本件更正決定及之に基き昭和二十九年七月二十六日被告の為した不動産公売処分が当然無効なる旨主張するが仮に原告等の所得が無かつたものであるとしても之に対して為した所得税の更正決定は存在して居ない所得を誤つて存在するものと認定した違法があるに帰し一応は有効であつて唯瑕疵ある行政処分として取消され得るものたるに止るものと解すべきであるから、右更正決定の無効なることの確認及右更正決定に基き為された不動産公売処分の無効なることの確認を求める原告の本訴請求は失当たるを免れない。仍て之を棄却すべきものとし民事訴訟法第八十九条を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 関護)

(目録省略)

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